研究概要 |
アデノウイルスベクターによる消化器癌遺伝子治療の可能性を検討した。最初にlacZ遺伝子をreporter geneとして組み込んだアデノウイルス(AxlacZ)を用いてin vitro,in vivoにおける感染実験を行った。食道癌、胃癌、大腸癌の培養細胞株を用いてin vitroにてAxlacZを接触させ、X-gal染色にてアデノウイルスの感染効率を調べた。細胞株にてかなり効率に違いがみられ、約20〜100%近くまでばらつきを認めた。次にヌードマウス皮下に細胞株を移植し、この腫瘍にAxlacZを直接注射し数日後に腫瘍を摘出した。これをX-galにて染色しアデノウイルスの感染を確認した。さらにアデノウイルスによる細胞性免疫をBALB/cマウスとその大腸癌細胞株colon26を用いて調べた。マウスの腹腔内にAxlacZを予め投与し、その後AxlacZを感染させたcolon26をマウスに移植する。予めAxlacZを投与しない場合に比較し腫瘍は抑制され、細胞性免疫の成立が示唆された。 次にwild-type p53を発現する組換えアデノウイルス(Axp53)を作製し、これを用いてin vitro,in vivoにて食道癌細胞株における抗腫瘍効果を検討した。細胞株にin vitroにてAxp53を感染させMTT assayにてcell survivalを調べると、約20〜90%と細胞株によるばらつきを認めた。in vivoではヌードマウス皮下に細胞株を移植し、AxlacZまたはAxp53を直接注射した。AzlacZでも増殖抑制がみられたがAxp53ではさらに効果が高く、またAxp53局注部位に免疫染色にてp53蛋白の発現を認めた。またin vitro,in vivoともにAxp53と制癌剤(CDDP,5-FU)の併用を調べたが、相加効果を得るにとどまった。 以上よりp53組換えアデノウイルスは消化器癌の遺伝子治療に有用と考えられる。
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