目的:従来承認されてきた肝切除限界を越えた拡大切除後の肝類洞壁細胞機能に着目し、nitric oxide(NO)や接着分子(ICAM-1)の発現から、残存肝機能障害発生の病態を解明する。特に、最終年度である平成8年度は、脾マクロファージより産生されるTNF-αが肝微小循環障害を増悪することが指摘されており、拡大肝切除に脾摘を併施して、脾の役割を検索し本研究を総括することを目的とした。 実験群と検索項目:イヌを用い、正常肝84%切除群とこれに脾摘併施群、さらに対照として70%肝切除のみの群に分類。肝細胞機能、肝類洞壁の内皮細胞機能(ヒアルロン酸)、Kupffer細胞機能(エンドトキシン)、NO(全体分光計)、ICAM-1(免疫組織化学染色)、肝組織血流などの動態を比較検討した。 成績: 1.拡大肝切除に脾摘を併施すると、NOの変動、ICAM-1の発現はともに有意に上昇あるいは減少し、術後早期の残存肝機能障害、特に内皮細胞機能障害を有意に改善し、肝微小循環を良好に維持した。 2.脾マクロファージがTNF-αの発現を介し、内皮細胞機能障害を進展させ、ICAM-1の発現を増強し、肝微小循環を低下させ、NOは代償的に一過性の上昇を示すが、内皮細胞機能障害度に応じてその後NOの低下を認めた。 以上より、拡大肝切除後の残存肝機能障害は内皮細胞機能障害に依存して、NOやICAN-1の発現が調節され、不可逆化する。しかし、脾摘併施によりこれらの病態は改善され、拡大肝切除の可能性が示された。
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