研究概要 |
当初に計画した研究計画では,本年度には細胞レベルでのアポトーシス(ラット単離膵腺房系での急性細胞障害)をテーマに研究を進め,そこから得られた知見をもとに,次年度に組織レベルでのアポトーシスとその修飾と制御について検討する予定であった.しかし組織レベルの膵管結紮モデルでの研究が予想以上に発展し,本年度研究によって以下のごとく多くの新知見が得られた. ラット膵管結紮モデル(PDL)を作成し,このモデルが臨床の慢性閉塞性膵炎の病態と相似することを実証した.1.PDLモデルでは膵腺房細胞の萎縮が起こるが,アポトーシスに特徴的な断片化DNAを検出するTUNEL法による検索では,膵腺房細胞の細胞核に一致してTUNEL蛍光陽性像が見られた.またPDL後の膵組織からDNAを抽出しアガロース電気泳動で観察したところアポトーシスに必須のラダーパターンが認められた.この2点からPDLによる膵萎縮の機序にはアポトーシスによる膵腺房細胞の細胞死が深く関与することが証明された.2.PDL後には膵腺房細胞にはアポトーシスがおこったが,逆に導管系細胞と間質は増殖することを発見した.アポトーシスを回避する機構に関与していることが知られている癌遺伝子であるbc1-2の産物を免疫組織染色で検討したところ,導管系細胞にのみ過剰に発現していることが判明した.また組織抽出物のWestern blotting法でもBc1-2蛋白の過剰発現が確認された.3.外科手術で得られた慢性膵炎膵組織のBc1-2蛋白免疫組織染色でもPDLモデルと同様の所見が得られ,慢性閉塞性膵炎の病態に上記のシークエンスが関与していることが示唆された.
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