研究概要 |
慢性膵炎モデルであるラット膵管結紮モデルを作成し外分泌膵の変化を検討した.膵腺房細胞は膵管結紮早期からアポトーシス(TUNEL法と電気泳動法で確認)によって死滅・萎縮し,導管系細胞の増生が見られたが内分泌膵には変化が認められなかった.アポトーシス調節癌遺伝子産物であるBcl-2蛋白の推移をみると,アポトーシス誘導性Bcl-2蛋白であるBaxとBcl-XSが膵腺房細胞に過剰発現し,アポトーシス抑制蛋白であるBcl-2,Bcl-XLとMcl-1が導管系細胞に過剰発現していた.一方,外科膵切除標本の解析では,慢性膵炎の一型である腫瘍随伴性膵炎においても,ラット膵管結紮モデルでみられた腺房細胞のアポトーシスと導管系細胞の増生が認められ,導管系細胞のBcl-2,Bcl-XLとMcl-1の過剰発現が観察され,Bcl-2蛋白とアポトーシスが慢性膵炎の発症進展機序に大きく関与していることが示唆された. 一方,浮腫性急性膵炎モデルであるラットセルレイン膵炎モデルとラット温阻血再灌流モデルでの観察では,急性膵炎回復期に膵腺房細胞のアポトーシス(電顕,TUNEL法と電気泳動法で確認)とBaxとBcl-XSの発現が認められた.また白血球涸渇処置を実施したラットでは,セルレイン膵炎の炎症程度が軽減するとともにアポトーシス誘導が著明に増強していた.したがって,急性膵炎モデルにおける腺房細胞のアポトーシスは「周囲に炎症という迷惑をかけない」自己防衛的反応であって,浸潤白血球は炎症の増悪因子として作用していることが推察された. さらに,膵癌細胞株での抗癌剤や放射線照射によるアポトーシス誘導を検討したが,これらのDNA損傷により時間用量依存性にBaxの誘導を伴うアポトーシスが誘導され,膵癌細胞株のBax/Bcl-2比が各々の細胞株の抗癌剤や放射線の感受性と密接に相関していることが明らかとなった.
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