研究概要 |
今年度は,大腸の腫瘍性病変におけるDNA複製エラーの解析を行うとともに,p53,TGFβ-RII遺伝子変異との関連を検討した。手術時に摘出された大腸癌47例,および大腸内視鏡検査時に切除された大腸腺腫内癌25例を対象とした。中性ホルマリンもしくはマイクロウエーブ固定標本のパラフィン切片から顕微鏡下に正常および癌部分を切り出しDNAを抽出し,以下の遺伝子解析を行った。RERについては,D2S123,D3S1067,TP53の3つのCA repeat locusにおけるmicrosatellite instabilityの有無で判定した。またTGFβ-RII遺伝子の中の反復配列の異常についてその前後の配列に特異的なプライマーを合成しPCRを行い解析した。p53遺伝子の異常についてはPCR法による変異,LOHの解析あるいは免疫染色により検討した。その結果,RERは一般大腸癌40例中6例(15%)に,またHNPCCなど何らの遺伝的素因を有する大腸癌においては7例中5例(71%)と高率に認められた。TGFβ-RIIの変異は,RER(+)6例中3例に検出された。一方,大腸腺腫内癌においてRERは25例中4例(16%)と進行大腸癌と同頻度に検出され,このうち3例においては隣接する腺腫部分ですでにRERが認められた。RER(+)の1例に進行大腸癌の合併を認め,また別の1例において切除後のフォローアップ中に進行胃癌が発見された。RERとp53遺伝子異常との間には相関を認めなかった。 DNA複製系の異常は一般の大腸癌においても10〜20%の頻度で認められるが,HNPCC症例や重複癌における頻度が高く,発癌への重要な関与が考えられる。またその標的の一つとしてTGFβ-RII遺伝子の変異の検索が有用と考えられた。また大腸ポリ-プなどの良性腫瘍性病変におけるRERの解析からその個人における発癌リスクを評価できる可能性があり,現在,retrospectiveならびにprospective studyを行っているところである。
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