ヒト大腸癌細胞株WiDrはp53遺伝子のコドン273に突然変異を持ち、異常p53タンパク質を発現している。この細胞にアデノウイルスベクターを用いて正常型p53遺伝子を導入し、シスプラチン・5-FUに対する感受性を検討した。in vitroにおいてp53アデノウイルスの感染によりWiDr細胞で強いp53蛋白の発現が認められ、ひの正常型p53遺伝子導入により抗癌剤単独処理に比べてシスプラチンでは61.9%、5-FUでは54.7%の抗腫瘍効果の増強が見られた。さらにin vivoのモデルとして、WiDr細胞1x10^6個をヌードマウスの皮下に移植し、顕微鏡的腫瘍が形成される3日後より3日間、2x10^7 plaque forming units(PFU)のp53アデノウイルスを腫瘍移植部位の皮下に注入し、同時に2mg/kgのシスプラチンを腹腔内に投与した。p53ウイルス単独およびシスプラチン単独では有意な増殖抑制は見られなかったが、腫瘍移植12日後の無治療群の腫瘍体積83.5+/-5.9mm^3に対してp53ウイルスおよびシスプラチン併用群では21.0+/-2.1mm^3と顕著な増殖抑制が認められた。また、p53アデノウイルスの感染によりp53タンパク質の発現が見られるとともに、p21タンパク質の持続的発現が検出された。この過程でアポトーシスが起こっており、p21の関与を示唆する結果である。当初計画した基礎実験は順調に進んでおり、その結果をもとに臨床研究の計画が準備可能となった。p53アデノウイルスとシスプラチンを用いた遺伝子治療臨床研究の培養細胞および動物を用いた実験はほぼ終了しており、さらに切除材料を用いてp53遺伝子の抗癌剤感受性(アポトーシス感受性)への関与も証明できた。
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