研究概要 |
(基礎的検討)門脈塞栓術後の肝腫瘍の増殖について基礎的検討をおこなった。〈方法〉6週齢雄のDonryuラットを用い、ラット可移植肝癌AH130を上腸間膜静脈より注入して肝転移モデルを作成し、以下の実をおこなった。全ての群で腫瘍細胞注入後10日目に開腹し、それぞれ以下の処置をおこない、さらにその10日目に屠殺した。a)単開腹(コントロール群)、b)門脈左枝をGerfoam powderにて塞栓(TPE群)、c)門脈左枝結紮(PVL群)、d)肝左葉切除(肝切群)、e)左肝動脈結紮(HAL群)。屠殺後、腫瘍の転移個数の算出、病理学的検索、および免疫組織学的検索(アポトーシス、PCNA,VEGF)、肝組織血流量の測定をおこなった。腫瘍は肝動脈造影にて濃染された。TPE群、PVL群では左葉の萎縮と右葉の著明な肥大を認めた。腫瘍細胞注入後10日目の肝腫瘍数は5群間で有意差はみられなかったが、屠殺時にはTPE群およびPVL群の右葉(非塞栓葉)で有意に癌の退縮を認めた。これは非塞栓葉における動脈血流が代償性に減少したためと考えられた。 (臨床的検討)当科では13例の症例にTPEを行ったが、これら症例に対し、CT VOLUME,切除肝における肝細胞面積、Tunel法によるアポトーシスの出現等の病理所見について検討した。CTによる術後の残肝に相当する部のTPE後の肥大率はいずれもZ2であった硬変肝で48%、黄疸肝で45%、正常肝で48%と有意差はみられなかった。一方、肝細胞の断面積を求めると、右葉は左葉に比べ有意に小さくTPEによる肝萎縮が細胞レベルでもみられた。塞栓葉においては、アポトーシスの所見が一部の症例において散見された。〈結語〉1.臨床的には黄疸肝および硬変肝の非塞栓葉はTPE後45%の肥大を示し正常肝と有意差はみられず、肝切除の術前処置として有用であった。2.TPE後の塞栓葉にはアポトーシスがみられ、肝の萎縮および再構築に関与しているものと思われた。
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