胃癌における癌抑制遺伝子の意義を明らかにすべく研究を行なった。 (1)胃癌切除症例の原発巣96例を対象として、胃癌組織におけるp53異常蛋白の発現を免疫組織学的に検索し、臨床病理学的因子さらにgenetic instabilityの指標としてDNA ploidyt pattern、増殖活性との関連を検討した。p53異常蛋白の発現はPAb1801抗体を用いて検索した。DNA ploidy patternは、Flowcytometryを用いてaneuploidyとdiploidyに大別した。96例中、P53異常蛋白が陽性な症例は52例(54%)であった。p53異常蛋白陽性症例におけるaneuploidyの割合は35例(69%)であり、一方、p53異常蛋白陰性症例においては44例中20例(45%)であった。即ち、p53遺伝子異常のある症例に有意に高くaneuploidy症例が認められた。また、p53異常蛋白陽性症例はp53異常蛋白陰性症例に比べ、DNA indexおよび増殖活性も有意に高い値であった。 (2)次に、胃癌の発育・進展における癌遺伝子の役割を研究するため、早期胃癌の発育形式とp53遺伝子異常との関連について検討した。早期胃癌切除症例159例を対象として、発育形式を粘膜に平行に横に広がる傾向を有する表層拡大発育型Superficial growth type(Super型)と粘膜に垂直方向への浸潤が強い深部浸潤発育型Penetrating growth type(Pen型)に大別した。発育形式とP53異常蛋白発現との関係は、Super型ではp53異常蛋白発現率は18%(25/59)であったが、Pen型は42%(25/59)と有意に高率であった。 (3)進行胃癌切除例196例ではp53異常蛋白質陽性率はColumn typeとMountain typeでは53.8%と52.9%であったがFunne1 typeでは28.9%であった。(p<0.05)多変量解析においてp53異常蛋白発現は腫瘍径、肝転移、発育形式とともに独立した予後囚子であった。従ってp53は早期癌のみならず進行胃癌においてもgenetic instability.発育形式や予後と深く関与していることが示された。
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