研究概要 |
現在までに32例の骨盤内自律神経温存を考慮した直腸癌手術が施行できた。全温存は27例、部分温存は2例、非温存は2例であった。全温存例に、排尿障害症例はなかったが、部分温存例に一例、9ヶ月間残尿、と神経因性膀胱が発生し、非温存症例はすべて、自己道尿症例となった。自律神経刺激による膀胱内圧や尿道内圧測定に要する時間は、約15分と短縮されてきた。現在、10-40ボルトの神経刺激で反応が認められ、膀胱枝の内側枝の電気刺激で、8例中7例に膀胱収縮が確認され、圧測定できている。これらの神経刺激症例の内1例は、部分温存例であったが、術後の排尿障害は認められていない。骨盤神経のS3,S4の刺激でも最近の症例では膀胱収縮反応のあることがわかった。膀胱の外側枝の刺激では1例のみ反応がえられた。下腹神経の刺激では、膀胱収縮は無く、頚部括約筋の収縮反応が認められた。骨盤神経、骨盤神経叢および膀胱枝内側枝の刺激でも膀胱頚部括約筋内圧上昇例が、認められた。骨盤神経叢と骨盤神経の刺激で頚部括約筋内圧の低下する場合も観察された。以上、未だ症例数としては不十分であるが、膀胱収縮には骨盤神経のS3,S4から出る神経がもっとも関与していると推察され、膀胱枝の内側の膀胱三角に至る神経が、最重要な伝達神経であることが判明した。直腸に近い側の膀胱枝が重要であるという知見は、直腸の手術の際、考慮すべき重要な点であると考えられた。骨盤神経S3またはS4と骨盤神経叢と膀胱内側枝の連絡を保つことが膀胱収縮を温存し、直腸癌手術の際の弛緩性膀胱の発生を防止する方法であると考えられた。
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