膵腺房細胞のtransdifferentiationの研究で銅欠乏状態のラット膵にhepatocyte-like cellが出現する事が1986年にRaoらによって確認された。hepatocyte-like cellへの細胞分化の機序は明らかでなく、肝細胞に固有の機能である胆汁生成が行われているかも不明である。本研究では、銅欠乏食-常食飼育ラットのhepatocyte-like cellにおいて胆汁の重要な構成要素である胆汁酸代謝の存在を明らかにすることを目的とした。 実験にはFisher344ラットのオス(体重80-90g)を用い銅欠乏食(0.3 to 0.4μg of Cu/g diet)にて8週間飼育した後、常食(6.5 to 8.0μg of Cu/g diet)に変更し、さらに8週間して銅欠乏食-常食飼育ラットを作製した。cholesterol 7α-hydroxylase(C7αH)およびΔ^4-3-ketosteroid 5β-reductaseは胆汁酸合成に関わる肝特異酵素であり、特にC7αHは胆汁酸合成の律速酵素である。銅欠乏食で飼育したラット膵のtotal RNAを調整しreverse transcriptase polymerase法で両酵素のmRNAの発現を調べた結果、銅欠乏食開始時には両酵素とも発現を認めないが、銅欠乏食8週目から両酵素の発現を認め、常食に戻してからも経時的に両酵素のmRNAの発現量が増加することが証明された。またC7αHは正常の肝細胞では酵素活性およびmRNAの発現に日内変動リズムを証明されているが、hepatocyte-like cellにおいても同様にmRNA発現に日内変動が存在することをcompetitive polymerase chain reaction法を用いて同酵素のmRNAの発現量を定量化することで証明した。 以上の実験結果から、膵のhepatocyte-like cellは肝細胞と同様に胆汁酸代謝機能を有していて胆汁を生成している可能性が示唆された。
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