本研究における課題は生理的な状態および各種病態時の肝臓における一酸化窒素(NO)の役割とその病態生理学的な意義を考察することである。まず生理的な状態におけるNOの意義を検討するため、ラット肝の門脈潅流モデルを用いて血管作働物質に対する応答を検討したところ、門脈圧は各種ルクレオチドで上昇したが、同時にNOの産生上昇もみられた。このNOの産生は主に類洞内皮細胞中の内皮型NO合成酵素によるものであった。NO合成酵素阻害剤ではこれら刺激による圧上昇の程度はさらに大きくなった。すなわち門脈圧の上昇刺激に対してNOの産生を高めることによりその圧上昇を軽減し生体の恒常性を保つように制御されていることが示唆された。次に病態時におけるNOの意義を解析するためラット敗血症モデルを用いると、肝、肺および脾で著名にNO合成酵素(誘導型)が誘導され、生理的な状態時の約千倍ものNOが産生された。本モデルでは肝、肺に著しい障害が引き起こされるが、NO合成酵素阻害剤を投与すると、さらに病態は悪化した。特に肝障害発生の機序の一つとして、NOの産生を抑制することにより腹腔動脈、上腸管膜動脈血流が低下し、すなわち肝動脈血流、門脈血流共に低下し、病態の悪化につながりうることが判明した。また逆にNOは鉄含有蛋白質を攻撃し、ミトコンドリアでは呼吸鎖細胞質ではチトクロームp450などの酵素を失活させることが判明した。さらにNOは細胞内グルタチオン代謝とも密接に関与しており、感染病態とグルタチオン代謝としての生体防御の一側面を解明した。
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