研究概要 |
本年度は当教室にて肝癌手術時に癌部、非癌部組織を採取しこれらから各種サイトカイン(TNF-α,IL-1β,IL-6,GM-CSF)および接着因子としてICAM-1を測定した。ICAM-1については患者血清中でも測定した。その結果、まず肝癌患者血清中では正常人に比較して有意に高値のICAM-1が検出された。また、手術時に得た組織をホモゲナイズしてこの上清中のサイトカイン量を測定したとこと、これまでの傾向通り癌部でTNF-α,GM-CSFが、非癌部でIL-1,2,6が高値を示すことが判明した。また、同時にこの抽出液中のICAM-1を測定したところ、癌部、非癌部ともに正常肝に比較して高値を示した。癌部と非癌部の比較では癌部の方が産生量が高い例と非癌部の方が高い例があった。これは癌の進行度、および原発性であるか、転移性であるかなどとも関係すると思われ、症例数をさらに増やして検討する必要性が考えられた。 一方、肝癌手術時に組織を採取し、これを培養したところ、数株の樹立細胞株が得られた。これを継代していく過程で培養上清を採取し上清中のICAM-1を測定したところ、4-15ng/mlのICAM-1が検出された。そこで樹立した肝癌細胞株を2X10^5/mlに調整し、これを各種サイトカイン(TNF-α,IL-1,6,GM-CSF)で刺激し、刺激後24時間の上清中におけるICAM-1産生量を測定した。その結果、TNF-α,IL-1,GM-CSF刺激時に刺激したサイトカインの濃度依存性ICAM-1の有意な上昇がみられた。また、IL-6刺激時でもICAM-1産生増強傾向が観察された。このように、細胞株の樹立、これを用いたICAM-1産生とサイトカインとの相互関係に関しては、我々の考えている傾向が得られたと思われる。特に樹立細胞を各種サイトカインで刺激し、その培養上清中のICAM-1量を検討した実験では刺激サイトカインの濃度依存性のICAM-1産生が観察されたことから、ICAM-1産生のサイトカインによる誘導の一部が証明されたと思われる。一方、癌部浸潤リンパ球へのICAM-1の影響も検討する予定であったが、浸潤リンパ球の数が少ないことから実行は不可能であった。浸潤リンパ球を採取して研究を進めることは平成8年度以降に計画しているが、浸潤リンパ球が有効に採取できなければ実験不可能である。そこで、本年度はそのより有効な採取方法を開発する予定であった。これまでのところcollagenase-DNase法が一番効率よく採取できたと思われる。文献的にはhyaluronidaseをこの系に加えたほうが有効であるとの報告もあるので、さらに検討の余地があるともわれた。 ICAM-1が癌細胞増殖にどう関与しているかは周辺部のリンパ球への影響も含めて、来年度、再来年度に継続して検討する予定である。
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