研究概要 |
(1)平成7,8年度の研究の続行として、新たに樹立した細胞株について各種サイトカインのICAM-1産生調節を検討した。この細胞株(MS1)は2年以上肝癌様の形態を維持して継代されている。まず培養上清中のICAM-1量は0.78ng/mlでありこれはTNF-αの濃度依存性に3.51ng/mlまで上昇した。IFN-γ,GM-CSF,IL-1でも同様に濃度依存性の産生増強がみられた。IL-6では多少の増強がみられたのみであった。 (2)サイトカイン添加によるMS-1細胞表面のICAM-1(CD54)発現率の変動を検討した。まず細胞表面のCD54陽性率は82.9%であり、TNF-α添加で91.4%まで増強した。IFN-γ,GM-CSF,IL-6添加でもそれぞれ92.8%、89%、88.3%まで増強した。従ってサイトカインによる細胞表面ICAM-1の誘導調節が証明された。また、腫瘍の増殖には癌細胞表面のB7-1,B7-2陽性率が深く関与していることから、MS1のサイトカイン添加培養によってこれらの陽性率がどのように変化するかを検討した。まずMS1細胞表面のB7-1陽性率は0.9%であり、TNF-α,IFN-γ,GM-CSF,IL-16処理によってそれぞれ5.6%、2.3%、3.7%、3.5%、1.7%と変化した。またB7-2ではMS1で陽性率が8%であったのに対し各サイトカイン処理でいずれも発現率が低下した。 (3)我々は癌周辺部にIL-1,2,6,癌部にTNF-α,GM-CSF等のサイトカイン産生異常を確認しており、これが周辺部のリンパ球機能に影響を及ぼしている可能性を考えている。そこで、肝癌患者末梢リンハ球(PBL)、TILの細胞性免疫能低下の原因を検討したところ、末梢リンパ球反応性は全体的に低下傾向が見られた。この中でTPA反応性のみ亢進していた。また、本年度はMS1細胞が樹立されまたこの患者由来の自己リンパ球が得られることから、autoおよびallo由来リンパ球のMS1に対する細胞傷害活性を検討した。その結果、allo由来リンパ球ではMS1に対する細胞傷害活性は認めなかったものの、autoのリンパ球に対する傷害活性はE/T比が2:1で34%認められ、E/T比の増加によって傷害活性の増強が見られた。さらにMS1をTNF-α,IFN-γで前処理し同様に傷害活性を測定したところ、その活性はサイトカイン処理によって増強していた。 (4)3年間の結果を総合すると、サイトカインがリンパ球、および腫瘍細胞に作用し、相互に影響を与えていると考えられた。またサイトカインは腫瘍細胞のB7-1,2発現を増強することでCTL活性化をおこしていることも予測された。
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