研究概要 |
大腸癌の多段階発癌過程には、癌遺伝子や癌抑制遺伝子の異常により異常増殖能を獲得したdoneの排除の抑制、すなわちアポトーシスの抑制が必要と考えられる。大腸腺腫の発癌ポテンシーとアポトーシスの抑制の関連を明らかにする目的で、隆起型大腸腺腫ならびに隆起型発育を示し粘膜下層に癌浸潤がみられる大腸癌(sm癌)において、p53、bcl-2、p21^<WAF1>ならびにProliferating cell nuclear antigen(PCNA)の発現を免疫組織学的に検討した。研究対象は、60例の低異型度(LGD)腺腫および21例の高異型度(HGD)腺腫ならびに13例のsm癌で、ホルマリン固定パラフィン包埋連続切片を用いた。p53およびbcl-2発現、ならびにPCNA陽性細胞比率(PCNA-PI)は大腸腺腫の異型度・癌深達度と相関がみられた。一方p21^<WAF1>発現は30%のLGD腺腫にみられたが、HGD腺腫あるいはsm癌では陽性頻度は低かった。PCNA-PIを異型度別に検討すると、LGD腺腫ではbcl-2陰性腺腫に比べ陽性腺腫のPCNA-PIは有意に高値であったが、HGD腺腫やsm癌では差は認められなかった。さらにp53およびp21^<WAF1>発現に基づき検討すると、HGD腺腫ならびにsm癌ではp53陰性・p21^<WAF1>陽性腫瘍群のPCNA-PIは他の群と比べ低く,特にHGD腺腫ではp53陽性・P21^<WAF1>陽性群と比べp53陰性・p21^<WAF1>陽性群のPCNA-PIは有無に低かった。以上の結果から、低異型度腺腫の段階で、bcl-2遺伝子蛋白が発現することによりアポトーシスの抑制が起こり,p53遺伝子変化が生じやすくなり、その結果細胞周期制御機構が破綻し細胞増殖が盛んになると考えられる。またmicrosatellite markerを用いた大腸癌を対象としたreplication errorの解析では、Dukes A大腸癌で20%の頻度でgenetic instabilityが認められたが、癌の病期が進行してもgenetic instabilityの頻度は不変であった。ある種の大腸癌では、癌に進展する前段階ですでにDNAミスマッチ修復エラーが起こっていることが示唆される。
|