研究概要 |
心臓移植における保存中のドナー心のリアルタイムかつ定量的なviability評価法の確立をめざし,誘電スペクトル法を用いて解析した心筋の電気的周波数特性の応用を検討することを研究目的とした.周波数特性を表現するパラメータであるloss tangentの極大値(tanδm)を,4℃生理食塩水と4℃University of Wisconsin Solutionに浸漬保存した雑種成犬の心筋で経時的に8時間計測した.これを心筋内ATP含有量の推移と比較検討した.保存直後のtanδmを100とする%tanδmは,ATPの残存率と,両群でそれぞれ良好に相関していた(生食群:r^2=0.81,UW群:r^2=0.66). さらに保存中の電気的周波数特性の変化と左室Emaxを指標とした移植後の心機能との関係について検討した.4℃生理食塩水に浸漬保存したブタの摘出心を用いた.保存中tanδm経時的に計測し,その後異所性腹部心移植を行った.保存前5.08±1.05であったtanδm保存中(145〜350分),徐々に低下した.保存中に示した最低値即ち移植前値(2.56〜4.49)と保存前に対する移植再灌流2時間後の左室Emaxの回復率は良好に相関していた(r^2=0.78).また,4℃生理食塩水に浸漬保存したブタの摘出心の電子顕微鏡による組織学的な変化とtanδの推移との関係を検討した.tanδmの変化は心筋細胞の細胞膜の破壊の程度と関係づけられる可能性が示唆された. 心筋の誘電スペクトルは,単純浸漬保存中の細胞障害を鋭敏に反映している.保存中にtanδを計測することにより,リアルタイムに心筋のviabilityを評価し得る可能性が示唆された.
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