研究概要 |
心臓手術に際して使用される現行の高K心停止液のイオン組成は成熟心筋を対象として定められたものであるが、その組成が未熟心筋に対しても至適であるかどうかは確認されていない。そこで本年度我々はこれらを明らかにするべく、特にCaとMgイオンに着目し、未熟心筋モデルとしてラット新生仔培養細胞を使って低酸素・再酸素化実験を行った。低酸素時、心停止液はCa=0.1,0.6,1.2,2.4mM、Mg=0,1.2,8,16mMと変化せしめ、細胞内Ca動態、逸脱酵素量(CK,LDH)、及び細胞拍動回復率を観察測定した。細胞内Caの測定はCa蛍光指示薬Fluo-3を用い、共焦点レーザー顕微鏡にて施行した。その結果、心停止液にMgを添加していないとき、心停止液中Ca濃度が0.1、1.2mM群ではそれぞれ再酸素化時、低酸素化時に著明な細胞内Ca過負荷を認め、逸脱酵素量(CK,LDH)も多く、細胞拍動回復率も不良で重篤な細胞障害を呈したが、Mgの少量添加によって全てのCa濃度群において効果的にCa過負荷は抑制され保護効果を示した。しかし低濃度Ca群(Ca=0.1mM)ではMgの添加量の増加とともに反対に再酸素化時、細胞内Caの増加傾向を認め、細胞障害性を示した。以上より、未熟心筋においても心停止液へのMgの添加は細胞内Ca過負荷を抑制し保護作用を示すことが明らかとなり、Ca濃度;0.6-2.4mMの心停止液ではMg濃度16mMは良好な保護効果をみた。しかし低Ca濃度(Ca=0.1mM)では過剰のMg添加は再潅流時に逆に細胞内Ca増加を惹起し障害性に働く可能性が示唆された。
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