研究概要 |
心臓手術に際して使用される現行の高カリウム心停止液のイオン組成は成熟心筋を対象として定められたものであるが、その組成が未熟心筋に対しても至適であるかどうかは確認されていない。平成7年度、虚血未熟心における高カリウム心停止液のイオン組織、特にカルシウム(Ca),マグネシウム(Mg)イオンの影響を明らかにすべく、未熟心筋モデルとしてラット新生仔培養心筋細胞を用いて低酸素・再酸素化実験を行い以下の結果を得た。 1.心停止液にMgが添加されていないとき、いずれのCa濃度心停止液群においても低酸素あるいは再酸素化時に細胞内Ca過負荷が生じた。なかでもCa0.1,1.2mM群では著名な細胞内Ca過負荷と細胞障害を示した。 2.心停止液へのMgの添加はどのCa濃度心停止液群においても細胞内Ca過負荷と細胞障害を制御した。 3.しかし低Ca濃度心停止液(Ca0.1mM)への大量のMg添加は逆に再酸素化時の細胞内Ca増加と細胞障害を生じた。さらに平成8年度、高カリウム心停止液中Ca,Mgの非虚血停止未熟心に及ぼす影響を検討するべく、Ca,Mg濃度を変化せしめた高カリウム心停止液の酸素化持続灌流を2時間行い、次の結果を得た。 1.心停止液Mg非添加時、どのCa濃度心停止液群でも細胞拍動停止中、細胞内Caは増加しなかった。しかし、Ca0.1mM群においては拍動再開時細胞内Ca過負荷を生じた。 2.心停止液へのMgの添加は心停止液中のCa濃度がいずれであっても、拍動停止・拍動再開時とも細胞内Ca増加及び細胞障害をもたらさなかった。 以上より未熟心において心停止液中のCa,Mg濃度は虚血心停止時・非虚血心停止時ともに細胞内Ca濃度と心筋保護効果に影響し、特に虚血心停止時には低Ca高Mg濃度心停止液の使用は心筋障害をもたらす可能性が示唆された。
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