研究概要 |
平成7〜8年度に教室で実施した腹部大動脈瘤手術例34例を対象に、腹部大動脈遮断前後の血中ミオグロビン値(Mb)、乳酸値(Lc)、スーパーオキサイド・デスムターゼ値(SOD)の経時的推移を検討した。大動脈遮断時間は50〜171分、平均100分であった。遮断解除後の血中Mb値は半数の症例で200ng/ml以下であり、100ng/ml以下の軽度上昇にとどまった患者が全体の27%を占め、この程度の遮断時間であれば、多くの例で臨床上大きな問題を生じないことが示唆された。また、全患者を大動脈遮断時間により、S群(遮断時間100分以内:17例)とL群(遮断時間100分以上:17例)に分けて、Mb,Lc,SODについて両群を比較検討したが、いずれの項目も両群間に有意差を認めなかった。しかし5例(15%)の患者は遮断解除から1〜数時間後に血中Mb値が1000ng/ml以上となり、うち2例は一過性に10,000ng/mlを超える高度のMb血症を呈した。ただし、この2例を含めて臨床経過はいずれも問題なく、34例中に手術死亡は1例もなかった。また血中Lc値の異常高値を呈した例はなく、一部の患者で測定したSOD値も遮断時間との相関関係は明らかではなかった。今後の課題として、一部の患者にみられた異常な高Mb血症がどのような機序、どのような病態で生じるのか、その臨床的意義と予防法についてさらに検討を進めたい。
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