平静7年度は、心筋細胞の凝固点以下の非凍結保存実験に先立ち、単離心筋細胞の凍結保存(-196°)におる適切な凍害保護剤の作製について検討した。従来の細胞膜透過性凍害保護剤であるDimethyl sulfoxide (DMSO)には心毒性があると言われ、それのみでは、長期心低温保存は不可能である。そこで、細胞膜非透過性のトレハロースを初めて導入し、本剤を添加することにより、DMSOの濃度を可及的に減少せしめ、かつ良好な凍害保護効果が得られるか否かを検討した。生後4日目のwister系ラット新生仔より、心筋細胞を分離培養し、24時間凍結保存(-196°)後心筋細胞シートを形勢し、心筋細胞の拍動状態と凍害保護液中に逸脱したCPKを計測した。その結果、DMSOの一般的な濃度10%から5%に低下させると拍動の回復はみられなかったが、トレハロースを添加することにより、DMSOを5%に低下することが可能となり、トレハロースの凍害保護剤としての有用性が確認された。平成8年度は、本研究の主目的である凝固点以下の非凍結心保存に対する本剤の有用性(凝固点以下の非凍結心筋細胞における保護効果および低温障害の抑制効果)について検討した。本実験では、トレハロースを含む保存液を用いた氷温非凍結保存(-4℃)で、ラット培養心筋細胞24時間保存後の心筋細胞の拍動状態、CPKの逸脱を観察した。その結果、保存後の心筋細胞の拍動は良好に維持され、CPKの逸脱は有意に抑制された。従って、トレハロースは、凍結直前の低温状態である氷温(-4℃)における低温障害に対し、心筋細胞保護効果を発揮することが確認された。
|