臓器移植の普及とともに、臓器の長期保存の必要性が高まるなか、特に凍結保存の有用性が指摘されている。心臓の凍結保存の研究は、1970代より行われたが、凍害保護液として心筋毒性の強いdimethylsulfoxide(DMSO)を高濃度(一般に10%濃度)で使用したこと、実質臓器である心臓を最初から体積の大きいwhole heartの状態で凍結しようとしたことが問題となり、結局成功に至っていない。本研究では、これらの点に着眼し、心筋細胞レベルからの凍結保存実験から着手し、新たに自然界に広く存在し、細胞毒性がないとされるトレハロースを保護剤として初めて導入し、DMSOの低濃度化を図ろうと試みた。さらにトレハロースの低温障害抑制効果や心筋細胞の保護効果が認められれば、次に凝固点以下の非凍結保存の心筋細胞に対する本剤の有用性を検証した。(結果)(I)マウス胎児心筋およびwister系ラット新生仔より心筋細胞を分離培養し、programmable Freezerで-40℃まで凍結し、液体窒素(-196℃)に保存した。凍害保護剤として10%DMSOおよび種々の濃度でトレハロースを添加し、24時間の凍結保存後解凍し、培養後24時間、48時間の拍動を観察するとともにこの凍害保護液中に逸脱したCPK値などにより、心筋細胞障害の程度を評価した。その結果各群のデータよりトレハロースを添加することにより、DMSOの濃度を減少させることが可能であることが確認された。(II)トレハロースの凝固点以下(氷温)の非凍結心筋細胞保存に対する有用性について検討した。本実験ではトレハロースを含む保存液を用いた氷温非凍結保存(ラット心筋細胞-4℃)で、ラット培養心筋細胞24時間保存後の心筋細胞の拍動状態、CPKの逸脱を観察した。その結果、保存後の心筋細胞の拍動は良好に維持され、CPKの逸脱は有意に抑制された。従って、トレハロースは、凍結直前の低温状態である氷温(-40℃)における低温障害に対し、心筋細胞保護効果を発揮することが確認され、同条件におけるwhole heart保存のstepとなることが示唆された。
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