研究概要 |
マグネシウム(Mg)投与は,虚血時の組織障害を軽減し心筋梗塞の死亡率を減少するという報告がある。しかし細胞内遊離Mg濃度(free[Mg^<2+>]_i)の測定が困難なため,その機序に関して不明な点が多い。^<31>P NMR法を用いて心筋のfree[Mg^<2+>]_iを測定し、細胞内Mg動態と細胞外液の無機リン酸(Pi)の関係について検討した。多目的低磁場装置の大塚電子製BEM250/80NMR分光計を用い,フーリエ変換(FFT)あるいは線形予測z変換(LPZAR)によって^<31>P NMRスペクトルを算出した。細胞内ATPの多くはMgイオンと結合しているため,β位リンのピークは結合型ATPと遊離型ATPの存在量で加重平均した位置に現れる。結合型および遊離型ATPのα位とβ位リンの共鳴周波数の差と,実測のスペクトルの共鳴周波数の差からfree[Mg^<2+>]_iを算出するする。実験はWistarラット摘出心(n=9)を用いて,[Mg^<2+>]あるいは[Pi]を変化させたKrebs-Henseleit bufferでLangendorff灌流を行った。^<31>P NMRスペクトルは,灌流液の[Mg^<2+>]を0.52mMから20mMに変更した場合と,灌流液の[Pi]を1.2mM,5.0mM,さらに1.2mMと変化させた場合の2通りで測定した。LPZARによるスペクトルは,FFTに比べSN比が高く容易に共鳴周波数の差を確定できた。灌流液の[Mg^<2+>]を0.52mMから20mMと変化させると,ATPβ位リンのピークは低磁場側に偏位し,心筋free[Mg^<2+>]_iが増加したことを示した。算出されたfree[Mg^<2+>]_iは,それぞれ0.537mMと0.731mMであった。灌流液の[Pi]を1.2mM,5.0mM,再度1.2mMと変化させると,^<31>P NMRスペクトルは[Pi]の上昇とともにATPβ位リンのピークは高磁場側に偏位し,心筋free[Mg^<2+>]_iが減少したことを示した。[Pi]を1.2mMに戻すとβ位リンのピークはcontrolの位置に戻り,心筋free[Mg^<2+>]_iは元の濃度に戻った。算出されたfree[Mg^<2+>]_iは,1.2mM Pi溶液では0.525±0.048mM.5.0mM Pi溶液では0.407±0.025mMと有意(p<0.05)に低下し,再び1.2mM pi溶液に戻すと0.601±0.053mMと上昇しcontrol状態の[Mg^<2+>]に戻った。また灌流液の[Pi]が1.2mM,5.0mM,1.2mMと変化すると,細胞内ΣATPに対するMgATPの濃度比はそれぞれ91.7±0.7%,89.8±0.7%,92.8±0.6%と変化した。LPZARによるスペクトル解析法によって,多目的低磁場装置の^<31>P NMRからfree[Mg^<2+>]_i測定が可能であった。^<31>P NMR法により細胞外液[Pi]を高くするとfree[Mg^<2+>]_iの減少が直接観測され,心筋細胞膜におけるMgイオン輸送系の存在が示唆された。
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