研究概要 |
本研究は,ヒトCuZn-SOD(SOD-1)遺伝子の導入により,通常のマウスより細胞内SOD活性が高いtransgenic mouseを用い,くも膜下出血後脳血管攣縮に対するSODの効果を明らかにすることを目的とする.使用したtransgenic mouseは,ヒトCuZn-SOD遺伝子をMCH(ICR)mouseに導入して作製した.これにより,SOD-1活性は通常のマウス(non-transgenic mouse)の約3倍に増加した.SOD-transgenic mouseおよびnon-transgenic mouse(35-40g)に対して,内頚動脈より挿入したナイロン糸により前大脳動脈を穿刺し,くも膜下出血(SAH)を作成した.SAH後,4h,24h,72h,7d,14dに10%formalinで灌流固定を行い,その後,墨汁と10%ゼラチン溶液を1:1の割合で混合した液体にて灌流し,血管内腔を充填した後,脳を取り出し,実体顕微鏡下に血管径を測定した.血管径の比較は,穿刺側の中大脳動脈起始部において行った.SAH後,72時間以内の死亡率は約30%で,non-transgenic mouseおよびSOD-transgenic mouseの間に有意差はなかった.non-transgenic mouseではSAHを作製しなかったcontrol群の血管径(138.5±14.5μm,Mean±SD;n=12)と比較し,SAH後,Day1においては有意な変化は認められなかったが(124.6±22.1μm,n=15),Day3において有意に血管径が縮小した(110.5±20.5μm,n=16;p<0.01).Day7にはcontrol levelまで回復した(139.4±13.1μm,n=14).SAH後,Day3におけるSOD-transgenic mouseの血管径は、non-transgenic mouseの血管径(110.5±20.5μm,n=16)と比較し,SOD-transgenic mouseにおける血管攣縮の程度は有意に軽度であった(127.9±20.2μm,n=20;p<0.05).今回の実験では,くも膜下出血後の脳血管攣縮の程度は,SOD-transgenic mouseにおいて有為に軽減していた.即ち,細胞内SODの高活性は脳血管攣縮を抑制する方向に働き,superoxideを含むfree radicalは脳血管攣縮の進展に重要な役割を果たしていることを示唆している.
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