臨床例においても下垂体の過形成およびその後の腫瘍化機序に関しては不明な点が多く、これから解明すべき問題点であり、またそのことにより腫瘍発生機序の解明にもつながると思われる。ラットのエストロゲンにより誘発される下垂体腫瘍はそのよい実験モデルであるが、その腫瘍化の過程がいかなるものかも未だ不明であり、時間的空間的に特異な発現様式を示す遺伝子を固定することは、その腫瘍化の分子機構解明に有効なアプローチと考え、その生物学的解析を試みている。 エストロゲン(ジプロピオン酸エスラジオール5mg/隔週 皮下注)により誘発されたラットの下垂体腫瘍実験モデル100検体を、DNA増幅法であるPCR法と、近年確立された任意プライマーによるPCRを利用したDifferential display(DD)法を用いて解析した。 エストロゲン投与開始後2週ごとに10匹ずつのエストロゲン誘発ラット下垂体腫瘍を採取し、液体窒素で凍結保存した。それぞれの検体からt-RNAを採取し、オリゴDtプライマー(アンカープライマー)5種類を用いて、選択的逆転写反応を行った。各検体からt-RNAが採取できたことは電気泳動により確認した。ラット下垂体は正常から過形成、腫瘍に至るまで10〜200mgと重量差が大きく、t-RNA採取に際しては手技的に困難な部分も存在した。現在、任意プライマーによる選択的第2鎖の合成により、PCRによる増幅を行い、電気泳動による分離、再増幅を行っている。これにより正常、過形成期、腫瘍化後における下垂体細胞の発現遺伝子の変化を検討中である。
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