下垂体腺腫は良性腫瘍であり、治療法の進歩により近年治療成績の格段の向上が見られるものの、まだ機能性腺腫や浸潤性腺腫では十分とはいえず、また再発例も少なくない。他の腫瘍と同様に、そのoncogenesisを知ることは将来的に治療法の開発に結びつくであろうし、また浸潤性を決定する因子も突きとめる必要がある。これらの問題点の解決のため、エストロゲン誘発ラット下垂体腫瘍モデルを用いてエストロゲン受容体およびPCR-differential display(PCR-DD)法によりcDNAの変化につき検討した。この実験モデルにおける下垂体は過形成を経て腫瘍化するが、その腫瘍発生機序は未解明であり、分子生物学的レベルでの変化をとらえるには適していると考えられる。また浸潤性に関しては、まずは臨床例の検討、次いでKi-67 labeling index とp27のcell cycle に関連した因子について検討した。結果は次の通りである。 1.エストロゲン投与により下垂体細胞のエストロゲン受容体は過形成期には増加し、腫瘍化するとともに減じる。エストロゲン投与の初期にはすでに腫瘍化の機転が働くものと推定される。2.PCR-DD法にてDNAにはmutationと考えられる変化が認められた。この変化の同定は今後の課題である。3.マンガン核を持つポルフィリン誘導体Mn-metalloporphyrine(ATN-10)は、MRI造影剤として腫瘍の悪性度の診断に使える可能性がある。4.浸潤性腺腫においては、Ki-67labeling index が有意に高い結果であり、high proliferationのものが浸潤性を持つと言える。p27発現率は浸潤性の有無で有意な差はなく、またそれぞれのKi-67labeling indexとも相関は認めなかった。今後、されに直接的な浸潤性決定因子を検索する必要がある。
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