1)マウスメラノーマ細胞株での検討 マウスメラノーマBl6-Fl0をBoyden chamber methodで脳血管内皮培養細胞株に対しての親和性で10回選択をおこなった腫瘍株Bl6-BEl0は一部のマウスのみで頚動脈注入後脳実質内腫瘍を形成した。親株は脳実質内転移を形成しないが、転移のパターンに大きな違いはなく、脳血管内皮への接着性は脳実質への転移能を規定する主要な因子とは考えられなかった。 2)ヒトメラノーマ細胞株での検討 我々が開発したヌードマウス大槽注入モデルにおける造腫瘍性を検討した。脳転移由来の細胞株においては全株において髄膜癌腫症にくわえ脳実質へ浸潤する腫瘍を形成したのに対し、リンパ節由来細胞株においては脳表に腫瘍を形成するものが多く、脳実質浸潤性をもつ細胞株は一部であった。さらにこれらの細胞株のin vitroでのサイトカインへの増殖反応を検討したところ、脳に浸潤性をもつものはTGF-βによる増殖抑制に抵抗性の傾向を有していた。さらにヒトメラノーマの手術材料もしくはprimary cultureをヌードマウス大槽に注入し検討したところ、脳転移由来の腫瘍においては全例において脳実質浸潤性を有していたのに対し、皮膚原発部あるいはリンパ節由来の細胞では脳への浸潤傾向は軽いものが多かった。以上よりヌードマウス大槽注入モデルにおける脳実質への浸潤性の有無が、腫瘍(少なくともメラノーマにおける)の脳への転移能とよく相関する可能性が示唆された。 われわれの研究によりメラノーマの系においては脳という微細環境への細胞の親和性が転移性と相関していることが示された。また、我々の開発したモデルを用いることにより、臨床に直結する脳転移の研究をさらに進めることが可能になったものと考えられた。
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