我々のこれまでの脳血管攣縮の病態の一連の研究成果(動脈壁平滑筋のcyclic GMPの産生低下、高エネルギー燐酸含量低下、細胞内カルシウム濃度制御の障害、蛍光色素に対する細胞膜透過性亢進)は、平滑筋の細胞障害が進み、弛緩収縮の制御がはずれていることを示すものである。今までの研究の過程で得られた血管組織標本を用いて行った組織の電子顕微鏡観察では平滑筋細胞の密度の現象、核と細胞質の凝集は認められたものの、necrosisは認められなかった。攣縮脳動脈壁の組織学的検討については既に多くの論文が発表されていて、中膜の細胞壊死、内膜の剥離脱落などの変化が有名であるが、一方でそれが見られなかったとの否定的結果の報告もいくつか発表されている。我々の一連のこれまでの研究結果は平滑筋細胞のviabilityの低下を示唆するために、壊死とは異なった細胞死、細胞障害の機構様式に注目し殊にアポトーシスによる細胞障害の関与があるか検討している。平成7年度には従来より用いてきたイヌのクモ膜下出血モデルを用いて、攣縮脳動脈の平滑筋細胞にアポトーシスが起こるのか検討した。脳槽に自家血を注入、脳底動脈に慢性血管脳攣縮を誘発、一週間後の攣縮程度を脳血管撮影によって計測した後、脳底動脈を採取冷凍保存した。血管平滑筋の染色体DNAを抽出し、アガローズ電気泳動により解析してDNAの断片化、電気泳動上のラダーパターンを正常血管と比較検討した。一部の標本でDNA断片化を示す所見がえられたがさらに現在検討中である。またTUNEL法による組織学的検討も開始したが、現在のところまだ明確な結論は得られていない。
|