本年度は損傷脳の修復、治癒過程に影響する因子のうち、修復過程の阻害因子と考えられるβAP(ベータアミロイド蛋白)の前駆物質であるβAPP(precursorベータアミロイド蛋白)について検討した。このためにラットに損傷脳を作成し、Anti-Alzheimer precursor protein A4による免疫組織染色を行い、実際にβAPPが経時的にどの部分に蓄積するかを観察し、前年度の成果とあわせて損傷治癒に対する影響を検討した。その結果、脳損傷24時間後に、破壊されたaxonや腫大したastrocyteのみられる損傷部を中心としてβAPPの免疫組織染色が認められた。復、NGF(Nerve grouth factor)の損傷部局所への投与によって、βAPPがより広い範囲で染色された。以上より、脳損傷がβAPPを誘導すること、NGFがβAPPの発現を促進する方向に働くことが示唆された。また、最終年度(平成9年度)に行う予定であった治癒促進性に働くと考えられるIL(インターロイキン)-1βに関しても検討を始め、ある程度の実験結果が得られている。最終年度は、これらの結果をまとめ、統合的に脳損傷後の修復過程を検討する予定である。
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