脳に損傷が生じた場合、マクロファージとアストロサイトは損傷脳組織における液性情報(サイトカインや神経栄養因子など種々の生物学的活性物質)をひきがねとして活性化、動員され、組織の修復、治癒が進むと考えられるが、詳細は十分にわかっていない。我々は、免疫組織学的手法を用い、初年度は損傷脳における細胞の発現・形態変化などの自然経過について検討した。マクロファージとアストロサイトを抗ED-1抗体、抗GFAP抗体で同定し、これらの細胞の増殖能を評価するために抗PCNA抗体で二重染色を行った。この結果、脳損傷後3日から7日をピークとして、まずマクロファージ、続いてアストロサイトが出現すること、BBBを越えて遊走したマクロファージは局所で増殖・増加したのに対し、アストロサイトは損傷局所において既存の細胞が活性化されGFAP陽性に転じたと考えられた。これら細胞の活性化にはサイトカインなどを介した情報伝達が関与していると推測され、それ以後の年度では損傷脳で早期から増加するインターロイキン(IL-1β)に着目し検討した。初年度に行った免疫組織染色法に加えて、ICAM-1(細胞間接着因子)染色を追加し、抗IL-1βモノクローナル抗体を投与し損傷治癒とくにICAM-1の発現に及ぼす影響を検討した。その結果、損傷周辺部にICAM-1陽性細胞が出現し、これはGFAP陽性のアストロサイトであることが明らかとなった。しかも、これは高濃度の抗IL-1βモノクローナル抗体の損傷脳局所への注入により抑制された。外傷後の急性期炎症性反応に、ICAM-1がグリア細胞に発現すること、このグリア細胞でのICAM-1の発現にIL-1βが関与していることが示唆された。損傷脳の修復における生物学的活性物質の役割については、未だ解明されていないことが多い。今後もこれらの産生や増加が治癒に働くのか、機能回復との関連はどうかなど、修復過程の中での位置づけ、相互の役割等について検討していく必要がある。
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