研究概要 |
31例のくも膜下出血患者の手術後、脳槽ドレナージより採取した脳脊髄液(CSF)中のNO代謝物(NO2,NO3)を測定したところ、発症直後よりNO代謝物が高い値を示し、慢性期まで継続した。これはNO代謝がくも膜下出血後14日間にわたり亢進していることを意味しているものと思われる。術前のHunt & Hess分類やCTスキャン上のFisher分類などとの相関を調べてみたが、特に有意な関係は得られなかった。また脳血管攣縮発生患者でも統計的に差は認められなかった。特にCSF中のNO3の値が高くこれはくも膜下腔に存在するヘモグロビンによる吸着が主な代謝経路になっている可能性を示した。また大量のステロイド(メチールプレドニゾロン)を投与した群とそうでない群を比較してもNO代謝物の濃度差は認められなかった。ステロイドがinducible NOS(iNOS)の合成を抑制することが知られており、今回の結果はくも膜下出血後のNO代謝の亢進にはiNOSの発現は少ないか、あまり大きく貢献していないことが示唆された。我々はこれらの結果をまとめ、現在Neurosurgeryへ投稿中である。 次のステップとしてマウス脳血管内皮の培養細胞を用い、サイトカインによるiNOSの発現を検討中である。CSF中のサイトカイン、特にIL-1β,IL-6,IL-8はくも膜下出血後著しく上昇することは確認済みであり、またこれらのサイトカインが脳血管に与える影響も既にin vivoの実験で観察した。これらのサイトカインが血管内皮constitutiveNOSやiNOSにどのような影響を与え、脳血管攣縮発生にどのように関与しているのか、さらに検討を加えたい。
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