単純ヘルペスウイルス(HSV)は感染した細胞で遺伝子が複製され、その細胞を死に至らしめるが、その複製には各種ウイルス感染蛋白質(ICP)が関与している。ことにウイルスDNAの複製極初期に発現されるICP4は重要であり、ICP4欠損HSVはこれ自体では遺伝子複製不能であり増殖できない。よって、ICP4遺伝子を腫瘍特異的な遺伝子プロモーターの下流に接続し、ICP4欠損変異型HSVに導入できれば、そのプロモーターが働く腫瘍細胞でのみウイルス遺伝子が複製され、その細胞を破壊することが期待される。われわれは肝細胞で特異的に発現するalbuminに注目し、そのenhancer/promoterでICP4遺伝子をdriveさせる組換えHSVであるG92Aを作成した。G92Aはalubumin enahncer/promoter-ICP4 unitがウイルス固有のtymidine kinase (tk) geneのcoding regionに組み込まれており、tk活性(-)であり、従って肝細胞癌特異的なHSVであることが予想された。この組換えHSVを用いて、われわれは以下の解析を行った。 先ず、Southern blot analysisにてG92Aの遺伝子構築が予想したものと同一であることを確認した。ついで、種々の細胞にG92Aを感染し、ICP4蛋白が発現するか検討したところ、albuminを産生する肝細胞癌でのみ効率よく発現していた。またG92Aを種々の細胞に感染させ、その細胞より、ウイルスを回収し、力価を測定したところ、肝細胞癌ではそれ以外の細胞に比べ、100倍程度高率にウイルスを産生していた。最後に種々の細胞にG92Aを感染させ、そのプラークの個数を数えると、肝細胞癌ではそれ以外の細胞に比して、1000倍程度多くのプラークを産生した。以上の結果より、G92Aは肝細胞癌を特異的に破壊しつつ、自己を複製する組換えHSVであると考えられた。以上の結果は現在Proc. Natl. Acad. Sci. USAおよびCancer gene therapyへ投稿中である。以上の結果を踏まえて、次年度はin vivoの感染実験を行いたい。
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