研究概要 |
本年度は,(1)カルパイン(CL)の拮抗剤(E64,カルペクチン)を虚血作成前に投与した場合について,平成7年度に検討した方法を用いて同様に検討した. 薬剤を投与しなかったコントロール群では,MAP2の染色性は0〜12時間,及び1,2日後には変化がなく,海馬の神経細胞の樹状突起や細胞体に保持されていたが,3日目に遅発性神経細胞死が生じ始めたCA1錐体細胞で染色性が低下した.一方,スペクトリンの染色性がは1日後から,CA1錐体細胞で低下した.正常のCA1, 3や歯状回の神経細胞においては,μ-, m-CLは,細胞体や樹状突起の起始部に弱陽性を示し,アイソザイムによる差はなかった.一過性前脳虚血後2日目までの海馬神経細胞には光顕的に明らかな変化を認めず,また,μ-, m-CLの染色性にも明らかな変化はなかった.虚血後3日目には,CA1の錐体神経細胞に変性,死が見られ,その細胞質や核において,μ-, m-CLの陽性所見が増強していた.以後7日目までは,μ-,m-CLの染色性は,細胞死が進行したCA1神経細胞の核に残存していたが,細胞破壊が進んだ樹状突起での染色性は低下した.これに対して,神経細胞死が生じなかった歯状回の顕粒細胞には,前脳虚血後μ-, m-CLの染色性や局在に明らかな変化はなかった.CLの蛋白レベルをWestren blottingにより検討した結果,海馬全体としてのCLの蛋白量は遅発性神経細胞死が3日目以後で低下した.PKCについては,γ-PKCの染色性が一過性前脳虚血後1〜2日目のCA1錐体細胞で増強しており,up regulationが生じている可能性を示唆した.その他のアイソザイムについては,明らかな変化はなかった. 虚血前にCLの拮抗剤を投与した群では,海馬CA1錐体細胞に生じる遅発性神経細胞死を完全には抑制できなかった.しかし投与濃度依存性に,CA1錐体細胞での脱落する神経細胞の数を減らすことができることが明らかになった.CLやPKCの染色能度についての経時的変化は,基本的には,コントロール群との比較で差はなく,変性神経細胞においては,CLの染色性が増強していた.PKCについては,CLの拮抗剤を投与しても,その染色性は,コントロール群との比較で差はなかった.
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