脳外科手術において静脈閉塞に伴う合併症は重要である。架橋静脈、あるいは静脈洞の手術時の損傷、切断はその灌流領域に静脈性の梗塞あるいは脳浮腫をもたらす。本実験では一次遮断時の静脈圧の上昇の程度で静脈閉塞による梗塞の発生を予測できるかどうかを検討した。犬のモデルを使用し、全身麻酔下、大脳正中部を上矢状洞(SSS)をふくめ両側開頭を行った。硬膜切開後、一本の皮質静脈を閉塞モデルとして選び、これに27G針を挿入し圧をモニター、静脈をSSSに流入する直前で一次遮断を行い圧変化を測定した。更に静脈をこの部で切断し24時間後の脳実質の組織学的変化を以下の4段階に分類し検討した。Stage 0:組織学的変化なし。Stage I:軽度浮腫のみ。Stage II:中等度浮腫あるいは神経細胞の虚血性変化。Stage III:中等度以上の出血。その結果、一次遮断時の静脈圧上昇は組織学的変化と強い相関を示した。各stageごとの圧上昇は、Stage 0:5.5±2.9mmHg(n=12)、Stage I:7.7±3.2mmHg(n=5)、Stage II:11.2±4.1mmHg(n=5)、Stage III:16.4±5.0mmHg(n=7)であった。またEvans-blue漏出の有無により調べた血液脳関門の破綻の程度も、静脈圧上昇とよく相関した。本実験より一次遮断時の静脈圧上昇が5mmHg以下であれば比較的安全に静脈切断が可能と思われた。これに対し圧上昇が10mmHgを越えるような静脈では、多くの場合その切断により灌流領域に種々の虚血性変化を来した。これらの値が一応の閾値であり、安全に切断が可能な静脈を術中に選別する事が可能と考えられた。
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