1.幼若ラットの頚髄in vitro標本において下行運動伝導路刺激による脊髄運動誘発電位を前根より記録した。誘発電位は二つの陽性波から成り、いづれもMnイオンの置換やキヌレン酸投与によって可逆的にブロックされたので、興奮性シナプス伝達を介する運動誘発電位と考えられた。 2.Hypoxiaにより誘発電位の潜時は遅延し、振幅は一過性に増大した後漸減した。再酸素化により潜時は再び短縮し、振幅もコントロール値まで回復した。 3.抑制性伝達物質の拮抗剤により早期低酸素時の誘発電位の一過性増大がブロックされた。このことから脊髄低酸素の早期には抑制性シナプス伝達が選択的に障害されると考えられた。このような抑制性シナプス伝達の抑制は脊髄の抑制性interneuronの低酸素性障害によって起こると考えられた。 4.mild hypoxiaでは低酸素負荷後も振幅は増大し続け、シナプス伝達のhyperexcitabilityが認められた。これは低酸素状態が軽度だったために、早期低酸素時に見られたような抑制性シナプス伝達の選択的な抑制が長時間にわたって持続したためと考えられた。 5.グルコースがない状態で低酸素負荷すると、振幅変化は急速に進み、グルコースが低酸素による神経組織の障害に深く関与していると思われた。30mMの高グルコースでは低酸素時の一過性振幅増大は起こらず、エネルギー基質が十分にあれば、抑制性interneuronの低酸性素障害を防ぐことができる可能性があると思われた。 6.今後は頚髄症における下肢spasticityのモデルとして幼若ラットの全脊髄in vitro標本を作り、頚髄で脊髄前側索を刺激し、腰髄前根で脊髄運動誘発電位を記録し、頚髄部のみに低酸素負荷をかけた時の変化を観察する。
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