(1)アンチセンスEWS/Fli-1遺伝子cDNAをサイトメガロウイルスのプロモーターを有するpC-DNAペクターに組み込みクローニングした。これをユ-イング肉腫細胞Tc-135Dにトランスフェクションし、ネオマイシン耐性株を10株得ることができた。このうちPCRにて明確なアンチセンスRNAの発現が確認できた3株に対しFli-1抗体で免疫沈降反応を行い、Fli-1蛋白の発現低下が認められた。pC-DNAのみを導入した細胞株に比較し、この3株の細胞増殖速度は遅く、soft agar assayにおいてコロニー形成能が低下し、ヌードマウスの造腫瘍性も低下していた。ユ-イング肉腫ではキメラ遺伝子EWS/Fli-1の発現が腫瘍発生に大きく関与し、その発現を抑制することにより、造腫瘍性が低下することが証明できた。 (2)腫瘍発生におけるEWS/Fli-1の作用メカニズムを明らかにする目的で、アンチセンス導入細胞と親細胞間で、シグナル伝達に関連する様々な因子、すなわちProteinkinase C(PKC)、Phospholipase C(PLC)、Phospholipase D(PLD)を中心に比較した。ウエスタンプロッティングによる検討の結果、アンチセンス導入細胞でPLC-β2、β3、PKC-α、β1、β2が減少していた。PLC-γ1、δ1、β1、RhoA、CDC42には変化が認められなかった。PMA、PDGF刺激によるPLD活性の増加は親細胞の約60%減少していた。 (3)EWS/Fli-1のfusion point近傍を標的とするアンチセンスオリゴDNA、およびリボザイムには、いずれもユ-イング肉腫細胞の増殖抑制効果が認められた。リボザイムは理論通りにキメラ遺伝子を切断でき、キメラ遺伝子産物の発現を抑制し、アンチセンスオリゴに比較し増殖抑制効果が大きかった。今回の研究で得られた結果は、EWS/Fli-1の作用を考察する上で意義があり、ユ-イング肉腫に対するアンチセンスオリゴDNAおよびリボザイムを用いた薬物治療、あるいは遺伝子治療の可能性を示唆するものと考える。
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