研究概要 |
本研究の目的は、次代の治療法としての免疫遺伝子療法、すなわち腫瘍特異的な抗原認識構造と腫瘍細胞攻撃機序の解明により、直接的に腫瘍を攻撃する療法の確立にある.まず手術時摘出腫瘍内に浸潤したcytotoxic lymphocyteの分離培養を行い、腫瘍摘出前に免疫賦活剤の腫瘍周囲投与により、生体内局所炎症によるリンパ球侵潤を促す方法が有用であること、さらに、分離したリンパ球を増殖させる際に、症例により増殖効率に差があることが判明した.この事実は、腫瘍内侵潤リンパ球の多様性で反映しており、実際に腫瘍特異抗原をモノクローナルに認識するT細胞の単離は困難で、むしろ腫瘍発生の側より同定する方が臨床応用に近いと思われた.この意味で、軟部肉腫に特異的なfusion geneは、腫瘍特異的遺伝子発現として腫瘍特異抗原と密接な関与が示唆され、滑膜肉腫に特異的な(X,18)の転座によって生じるSYT-SSX fusion geneを腫瘍特異的遺伝子発現として、RT-PCR法を利用して検討した.その結果11例の滑膜肉腫症例全例で本融合遺伝子を同定、腫瘍特異抗原としてのT細胞の標的となる可能性につき報告した.また、SYT-SSX融合遺伝子の蛋白発現を見るため、抗体作成をC末端側のリコンビナント蛋白を用い行った.この抗SYT-SSX融合蛋白ポリクローナル抗体を用い、滑膜肉腫細胞のcell lysateを免疫沈降した結果、約60kDaのバンドを検出した.免疫沈降の結果では、この蛋白は腫瘍特異性が高く、腫瘍免疫における腫瘍特異抗原と成り得ると考えられた.また、本融合遺伝子をNIH3T3細胞にtransfectし、造腫瘍性の確認をin vitro & vivoにて行い、腫瘍発生のkey geneであることも確認した.次いで、腫瘍攻撃手段として、腫瘍における本融合遺伝子発現を低下させる、より根本的な治療として、SYT-SSX融合遺伝子のanti-senseを用いた抗腫瘍治療の検討をin vitroにて行った.その結果、有意差をもってanti-senseは滑膜肉腫細胞の増殖を低下させ得たが、その効果は2割程度であり、より効率的な抗腫瘍活性を持った投与法をin vivoにて検討中である.
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