研究概要 |
本年度(平成8年度)ヒトにおける臨床研究を行った。Random-noise forced oscillation法による呼吸インピーダンスの測定を測定し、昨年度の研究結果でえられた呼吸系の数理モデルをそれに当てはめることにより,間接に気道系と肺実質系を分離して呼吸系メカニクスを測定した。 1.小児における呼吸系メカニクスの特殊性を3か月から6才までの乳幼児を対象として検討した。気道抵抗は3ケ月から1才にかけ急速に減少しその後は徐々に漸減した。肺弾性は気道抵抗ほどではないがやはり成長に従い指数関数状に減少した。つまり乳幼であるほど肺は硬く,1才まで成長に従い急速に柔らかくなりその後は徐々に成人の肺の機械的特性に漸近するといえる。また肺実質の特性の指標である。肺実質粘性と弾性との比は年少ほど小さく成長につれて徐々に成人の値に近づいた。これは肺実質組織学的構造の成熟度によると思われた。 2.下肢貯血の増減による静脈還流量の変化の呼吸メカニクスへの影響を麻酔中の成人を対象として調べた。この程度の静脈還流変動の肺メカニクスへの影響は大きくはないが、静脈還流の増加により気道抵抗は5-10%増加した。もともと気道抵抗が高く,呼吸筋予備力の少ない人では静脈還流の増加する様な処置(体位)は自発呼吸下の麻酔では問題になるかもしれない。 3.覚醒中の健康成人9人を対象とし体位の呼吸メカニクスへの影響研究した。体位の影響はそれほど大きいものではない。肺抵抗は坐位が一番小さく,仰臥位で最大となり,側臥位,腹臥位はその中間に位置する。その変化は肺実質抵抗ではなく気道抵抗の変化による。肺弾性と胸壁メカニクスへの体位の影響は見られなかった。臨床において仰臥位では気道抵抗の増加による呼吸仕事量の増加が考えられ,呼吸筋易疲労性の患者にとって不利な体位となる可能性がある。
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