キセノンによる呼吸抑制は認められず、気道刺激性もなかった。脈拍の若干の低下はあるものの、血圧は安定しており循環に及ぼす影響は軽微であった。キセノンの導入および覚醒時間は明らかに笑気より短かった。キセノンの体内摂取量は麻酔開始直後は比較的多く、これらのほとんどは患者の機能的残気量に取り込まれる量と考えられた。しかし、麻酔開始より30分を経過するとキセノンの摂取量は20ml/分以下となった。キセノンは不活性ガスであり体内代謝がないため、計算上の体内代謝率は0に等しかった。したがって臓器毒性は認められなかった。問題点は、麻酔回路内のキセノン濃度を60%以上にするためのキセノンガスが、30l以上も必要なことであった。これは麻酔初期に回路内ガスをキセノンガスによりwashoutするために費やされるからであり、従来の麻酔システムではこの無駄なキセノンガスの消費を抑制できない。今後、この点を解決しなければ、キセノン麻酔を臨床応用していくことができないと考える。そこで、現在、いくつかの方法を考案し検討中であるが、麻酔回路にキセノンガスを緩徐に送気して充填することが今のところ最良である。この方法によりwashoutに費やされるキセノンガスのおよそ三分の二を節約することができた。しかし、この方法はなるべく緩徐に注入したほうが効率はよいが、その反面、注入している間、患者を無呼吸状態にしなければならないという欠点がある。
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