本研究の目的は大血管手術を受ける末梢血管病変を持つ患者の周術期リスク指標としての心拍変動解析の有用性を明らかにすることである。そのために、我々は名古屋大学医学部附属病院で行われる血管外科予定手術症例を対象として、術前および周術期心拍変動解析を自律神経活動と密接に関連のある線形解析と生体の動的恒常性に強く関与している非線形解析(カオス解析)より検討をおこなうために1993年2月より1996年1月までの102例の術前評価のためにホルター心電図よりRR間隔の解析をおこなった。その結果の一部は第3回日本麻酔学会(1996年3月、岡山)で"血管外科麻酔の術前評価プロトコールの試み"として発表する。 術後RR間隔の"ゆらぎ"が極端に失われるために、RR間隔測定の誤差が16ミリ秒あるホルター心電図を用いることができないので、新たに1msecの精度で2日間のRR間隔を連続測定可能なAC300(諏訪トラスト)を購入した。 本年度は心拍変動カオス解析をストレンジアトラクターの埋込み次元、相関次元より検討する解析システムを開発・完成させた。このシステムを利用して、従来蓄積したデータの解析してシステムの有用性を検討した。その成果より、日本集中治療医学会東海北陸地方会(1995年9月、岐阜)では冠動脈疾患患者では術後動的恒常性の低下がみられたことを、日本臨床モニター学会総会(1996年3月、福岡)では、吸入麻酔薬により容量依存性に埋込み次元、相関次元が低下したことを報告した。このカオス解析システムとAC300により得られたRR間隔より末梢血管外科患者の周術期心拍変動解析が可能となった。
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