好中球は感染防御に重要な働きをしているが、一方、好中球が感染防御のために産生する活性酸素や蛋白分解酵素は、過剰に産生された場合、正常細胞や組織を傷害する。ARDSにおける肺傷害の発生機序に、肺への好中球集積および好中球が産生する細胞傷害性物質が関与していることが注目されている。好中球が血管外の炎症部位に遊走するためには、血管内皮との接着が必要である。好中球の血管外遊走に必要な接着分子としてL-セレクチンが知られている。今回の研究では、L-セレクチンの阻害剤であるフコイジンを用いて急性肺傷害の抑制効果および腹膜炎の抑制効果を家兎を用いて検討した。その結果、好中球の活性化が病態形成に中心的役割を果しているPMA(phorbolmyristate acetate)誘導肺傷害においては、フコイジンによる接着分子の阻害は、気管支肺胞洗浄液中への好中球集積を著明に抑制することが示された。また、TGC(thioglycollate)誘導腹膜炎においても、フコイジンの投与により腹腔内への好中球集積が著明に抑制された。つまり、フコイジンによる接着分子の阻害が、炎症部位への好中球集積を抑制した。一方、フコイジン投与により、末梢血中では著しい好中球増加を認めた。これらのことから、好中球の循環血液中から炎症部位への血管外遊走には、L-レセクチンが重要な役割を果していることが考えられる。 今回の研究結果は、好中球による臓器傷害に果す接着分子L-セレクチンの役割を明らかにしたものであり、また、それを抑制することにより、好中球血管外遊走を阻害し、臓器傷害を軽減するという新しい治療法の可能性を示唆するものである。
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