中枢神経系におけるノルアドレナリン作動性神経は麻酔作用に関連が深いと考えられている。大脳皮質でノルアドレナリン(NE)はα1アドレナリン受容体と結合し、G蛋白を介してホスホリパーゼCを活性化し、イノシトール燐脂質(PI)代謝を促進する。ラット大脳皮質でエタノール、バルビタール(ペントバルビタールとチアミラール)そして揮発性麻酔薬のNE誘発性PI代謝に及ぼす影響を調べた。またPI代謝に関与するG蛋白は通常百日咳毒素(PTX)によって遮断されないGq蛋白であることが報告されているが、この実験系においてこのことを確認した。 方法)ラット大脳皮質切片と[3H]ミオイノシトールを37℃で反応させ、生成したイノシトール3燐酸の代謝産物のイノシトール1燐酸[3H]IP1)を液状シンチレーションカウンターで測定した。揮発性麻酔薬はハロタン、イソフルランそしてセボフルランを用いた。揮発性麻酔薬濃度の確認はガスクロマトグラフィーで行った。 結果)私たちが用いた実験系においてNE誘発性IP1産生にPTXは影響を与えなかった。ラット大脳皮質切片で、エタノールとバルビタールはNE誘発性PI代謝を抑制し、セボフルランはNE誘発性PI代謝を促進し、ハロタン、イソフルランは影響しなかった。 以上の結果から、大脳皮質のNE誘発性PI代謝における効果は麻酔薬により異なることが示された。私たちが使用した麻酔薬の濃度は臨床使用濃度を含んでおり、セボフルランはPI代謝を活性化したが、ハロタンやイソフルランにはその作用はみられず、PI代謝系蛋白とセボフルランの特異的相互作用によるものであろう。またエタノールとバルビタールはPI代謝を抑制した。麻酔薬のPI代謝に及ぼす影響は多様であり、麻酔作用に直接関連していないと考えられる。
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