研究概要 |
術前の自律神経検査をできるだけ無侵襲で行い、その血圧、心拍数変化から術中の循環変動を予測することが今回の研究の目的である。日本コーリン社のトノメトリ法による持続血圧測定は多少の問題はあるが、無侵襲で正確な情報を提供した。最初の計画では患者に深呼吸とバルサルバ法で負荷をかける予定だったが、侵襲の少ない検査にするためにバルサルバ法をやめ、特殊な装置をベッドに装着し患者を約60゚立位にした時の血圧、心拍数変化を観察した(Tilt-up試験)。心拍変動は諏訪コ-ポレーションのシステムソフトMemCalcで解析した。深呼吸負荷では最大RR間隔、最小RR間隔をそれぞれ6回採取し、その平均差のRRMAX-RRMINを求め、RR間隔全体の標準偏差も算出した。Tilt-up試験では(1)resting in supine(2)supine→tilt-up(3)during tilting(4)tilting→supineの4時点で血圧、心拍変動を記録した。患者は対照群、糖尿病群、高血圧群に分類し比較した。 (結果)対照群6例、糖尿病群2例、高血圧群2例のデータを記録した。深呼吸負荷でRRMAX-RRMINは対照群157±26(mean±SEM)、糖尿病群143±33、高血圧群130±34msecであった。自律神経が正常な対照群が最も大きな変動を示した。Tilt-up試験では糖尿病群、高血圧群の収縮期血圧がtilt-up20秒後に基準値の68%、70%まで減少し60秒後でも基準値に戻らなかった。これに対し対照群の収縮期血圧は殆ど変化しなかった。Tilt-up試験中の心拍変動をLFC,MFC,HFCに分けて経時的変化をみたが、3群間で差がなかった。 手術当日の循環変動を、気管内挿管時、手術中の2時点の収縮期血圧、心拍数の最大変化量で比較した。変動の順位を下記に記す。 気管内挿管時:収縮期血圧変動は糖尿病群>高血圧症群>対照群、心拍数変動は高血圧症群>糖尿病群>対照群 手術中:収縮期血圧変動は糖尿病群>高血圧群>対照群>、心拍数変動は糖尿病群>対照群>高血圧群 深呼吸時の心拍変動、Tilt-up試験の収縮期血圧変動が手術中の循環変動の良い指標となりそうである。症例数が増加した時点で多変量解析を行う予定である。
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