研究(A)14名の術前患者を対照群、糖尿病群、高血圧群に分類し侵襲の少ないTilt up試験と深呼吸試験を施行し、心電図RR間隔、非観血的動脈圧、手指血流を連続的に測定し、手術中の血行動態変動との関係を検討した。深呼吸試験における糖尿病群、高血圧群のRR間隔の変化量は対照群の61%、83%に減少した。Tilt up試験では対照群の収縮期血圧がTilt up前値の96%に減少したのに対して、糖尿病群、高血圧群は62%、81%に減少した。この時、対照群は有意な代償性心拍増加をみたが糖尿病群では殆ど心拍増加を生じなかった。手術中は糖尿病群において他の2群に比べて明らかに大きな血行動態変動がみられた。トノメトリ法による持続血圧測定は急激な血圧変動に追従できないなどの問題はあるが、無侵襲で正確な情報を提供した。深呼吸時、Tilt-up試験の心拍変動、収縮期血圧変動は手術中の循環変動の良い指標となると考える。ただし、今回の自律神経検査は、不整脈、膝痛、腰痛のある患者では正確な評価ができないなどの問題があり、今後検討が必要である。 研究(B):短時間手術を受ける患者32名を笑気-酸素-プロポフォール-フェンタニルで麻酔し自律神経回復過程を観察した。手術前中後の心電図を記録し心拍変動をMemCalcシステムによる最大エントロピー法を用いてスペクトル解析した。最初の15名では手術直後に投与したナロキサンが心拍変動に影響しないことを確かめた。残りの17名ではプロポフォール麻酔下ではHFC、total powerが減少しLFC/HFCが増加した。この変化は3時間後には手術前日の値に回復した。心拍変動のスペクトル解析は麻酔覚醒の客観的指標になることが示唆された。
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