1)実験方法:ヒト血管平滑筋及び血管内皮細胞のショック時の反応性を検討するために、人胃大網動脈を用いて実験を行った。胃切除術に際して摘出された胃標本から人胃大網動脈を取りだし、実体顕微鏡下(ニコンSMZ-2T-2)に、血管リング標本を作成した。その等尺性張力をストレインアンプ(日本電気三栄、6M82)で測定し、ペンレコーダー(セコニック、SS-250F)で記録した。 2)結果:人胃大網動脈標本は、1.0μMノルアドレナリンにより収縮し、その収縮の振幅はノルアドレナリンを繰り返し投与しても、10時間以上にわたりほぼ一定であった。敗血症ショック時の原因物質と考えられる大腸菌由来のエンドトキシン(10μg/ml)投与により、このノルアドレナリン収縮は緩徐な経過で抑制された。エンドトキシンによる収縮抑制作用は、nitric oxide(NO)産生阻害剤であるL-NAME、cyclic GMP産生阻害剤のmethylene blueにより消失したことから、NOを介していると考えられた。また、誘導型NO合成酵素(iNOS)阻害剤であるcycloheximideによってもエンドトキシンによる収縮抑制作用が消失したことから、iNOSによるNO産生が関与していると考えられる。また、抗ショック作用があると考えられているmethylprednisolone(ステロイド剤)が、臨床血中濃度でiNOS抑制作用があることがわかった。この知見は敗血症ショックの治療に大きな影響を与えるものと判断される。さらに、黄色ブドウ球菌から産生されるlipoteichoic acidもiNOSによるNO産生を介してヒト血管収縮抑制作用を有することが分かった。 3)結論:敗血症ショック時の血管平滑筋収縮能の低下にiNOSによるNO産生が関与していることが確認された。また、methylprednisoloneが血管平滑筋収縮能の低下の予防に有効であることも発見した。本研究による成果はショック治療に貴重な情報を与えたものと考えられる。
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