研究概要 |
坐骨神経結紮モデルラットの結紮側後足の痛覚過敏状態において,脊髄内後角興奮性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)の濃度上昇が認められ,また,脊髄後角の細胞内カルシウムイオンの濃度の上昇が認められた.NMDA受容体拮抗薬MK-801を一週間前から全身投与しておくことにより,興奮性アミノ酸および細胞内カルシウムイオンの濃度の上昇を抑制することが明らかとなった.従って,末梢神経損傷により,脊髄内では,興奮性アミノ酸の持続的放出と,それによる細胞内カルシウムイオンの持続性上昇が生じており,これらの変化が持続的な病的疼痛状態を形成するのに寄与していることが明らかにされた. また,この末梢神経損傷による病的疼痛状態時,内因性鎮痛機構の作動性についての検討を行った.抑制系であるグリシン系およびGABA系についての研究では,脊髄後角内グリシンおよびGABA濃度は,コントロールラットに比較し有意な濃度上昇を認めた.また,グリシン受容体拮抗薬ストリキニ-ネおよびGABA受容体拮抗薬ビククリンの脊髄くも膜下投与により痛覚過敏状態が増強された.これらの結果より,グリシンおよびGABAの抑制系がこの病的疼痛状態下にて活性化されていることが示された.加えて,他の重要な抑制系であるモノアミン性下行性抑制系についての検討を行った.坐骨神経結紮モデルの脊髄後角のノルアドレナリン,セロトニン濃度は有意に上昇していた.また,ヨヒンビンまたはメチセルギッドのくも膜下投与は,痛覚過敏状態を強化した.従って,内因性鎮痛機構のひとつであるモノアミン性下行性抑制系の賦活もまた示された.
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