雑種犬を使用して、吸入気酸素濃度を次第に低下させて作成した低酸素血症時及び肝の30%を切除した肝切除術時のハロタン、イソフルラン、セボフルランの肝循環、肝酸素需給動態と肝エネルギーチャージに及ぼす影響を電磁流量計による測定と動脈血中ケトン体比の測定による成績から検討を加えた。ハロタンと比較してイソフルラン、セボフルランは肝循環、肝酸素需給動態、肝エネルギーチャージのいずれもよく維持するところから、イソフルランやセボフルランでは極めて強度の低酸素血症時以外では、肝酵素需給不均衡に基づく肝障害は生じないものと思われた。さらに人為的なショックに近い状態と考えられている人工心肺中の肝血流量、肝酸素需給動態、肝エネルギーギ-チャージについても、ビ-グル犬を使用した同様の研究で検討を加えた。この結果、フェンタニール10μg/kg/hの麻酔下では、人工心肺によって血圧、心拍出量は低下しても、対照時の大動脈基始部血流量の80%の人工心肺灌流量が得られておれば、人工心肺の全経過を通じて肝動脈、門脈ともその血流量は減少せず、血液希釈により血中の酸素含量が低下するために肝酸素供給量は減少するものの、肝酸素摂取率を上昇させることにより肝酸素消費量がよく維持されることが明らかとなった。この結果を反映して、肝エネルギーもよく保たれていた。従って動物実験では、人工心肺中の肝血流量は灌流量に依存性があり、適切な灌流量のもとでは、術後の肝障害を惹起する危険性は少ないものと推測された。この結果は、第11回World Congress of Anesthesiologist (April 1996、 Sydney、 Australia)にて発表の予定である。
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