研究概要 |
本研究の目的は“ラット腸間膜微小循環系において吸入麻酔薬(セボフルラン、ハロセン)が血管内皮細胞における一酸化窒素(NO)生成系を抑制し、好中球との接着反応を賦活化する"との仮説を検討することである。その結果、i) 2MACのハロセン吸入は血圧を低下させる一方、微小循環レベルでは細動脈血流を著しく低下させ、血流のto-and-fro現象を起こし、血管内皮への好中球接着反応を活性化する、ii) 2MACのセボフルラン吸入は血圧ならびに細動脈血流を十分に保ちながら、血管内皮への好中球接着反応を活性化する、iii)ハロセンによる接着反応は外因性NO供給と接着分子ICAM-1のモノクローナル抗体により抑制されるものの、P-selctin抗体では効果がない、iv)セボフルランにより惹起される白血球接着反応は外因性NO供給と接着分子P-selectin,ICAM-1のモノクローナル抗体前処置がいずれも抑制する、v)蛍光色素でラベルしたP-selectin抗体を用いると、いずれの吸入麻酔中にも蛍光が血管内皮細胞上に表出される点が明らかとなった。したがって、i)吸入麻酔により惹起される白血球の接着はいずれもICAM-1が関与するfirm adhesionであり、組織障害過程の重要な第一段階そのものである、ii)ハロセン、セボフルランはいずれも転回に関与する接着分子P-selectinを血管内皮細胞上に表出するが、微小循環動態に与える影響の差から白血球の転回から接着に至る機序が異なる.iii)ニトロプルッシッドによる低血圧麻酔は、吸入麻酔薬が微小循環に与える効果を軽減すると結論できる。今までのin vitroでの研究と異なり、生体免疫機構に吸入麻酔が及ぼす影響を生体内で解析した最初の研究であること、さらに麻酔は必ずしも生体を侵襲から防御することにはならないことを示した点で意義深い。
|