人工の高齢化と生活の欧米化に伴い動脈硬化性病変を合併症に持つ患者を麻酔する機会が増えている。また動脈硬化症が周術期合併症のリスクファクターであることは疑う余地はない。しかし術前に動脈硬化の合併の有無やその程度を知る方法は少ない。 動脈硬化症では動脈のコンプライアンスが低下することが知られている。そこでコンプライアンスの低い人工血管で腹部大動脈に人工血管置換術を施行した患者で人工血管置換術の前後で大動脈脈波速度を測定し、血管のコンプライアンスの変化が大動脈脈波速度に及ぼす影響を調べた。 (結果) 1) 全身麻酔に人工血管置換術を予定された腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症の患者について、大動脈脈波速度計PWV-200による大動脈脈波速度の測定を行なった。すべての症例で健常者(7.9m/s)に比べて、大動脈脈波速度は大きい値が得られ、11.4m/s(平均)であった。 2) 1)で大動脈脈波速度を測定した患者の人工血管置換術後に再度大動脈脈波速度を測定した。すべての症例で人工血管置換術後の大動脈脈波速度は人工血管置換術前のそれに比べてより大き値が得られ、その平均は15.3m/sであった。 以上のことから大動脈の一部を人工血管に置換しただけで大動脈脈波速度は大きく変化したことが分かった。つまり大動脈脈波速度は大動脈の性状の変化を鋭敏に反映することが示唆された。
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