特発性末梢性顔面神経麻痺の成因については、十分に解明されていないが、主たる病態として虚血の関与が大きいと考えられている。しかし、初期の循環障害発生のメカニズムに関しての詳細は不明である。私たちは、顔面神経の微小血管系に影響を及ぼす因子として、交感神経系の関与を強く推測している。そこで、顔面神経の生理的機能に直接的に関わる微小循環に及ぼす交感神経機能の影響をみるため、頸部交感神経系の機能の変化や呼吸状態の変化による顔面神経の組織血流量の変化を検討した。 平成8年度は、交感神経機能を呼吸状態の変化から中枢性機序を介して間接的に変化させ、顔面神経の微小循環に及ぼす影響を検討した。雑種成犬を研究対象として用い、静脈麻酔下に人工呼吸とし、総頸動脈血流量を電磁流量計にて測定し、顔面神経の組織血流量をレーザー・ドプラー組織血流計にて測定した。これらのパラメータを連続的に測定しながら、換気条件を変化させて動脈血中の炭酸ガス分圧を変化させ、それに伴う中枢性機序による交感神経系の変化が及ぼす影響を検討した。その結果、高炭酸ガス血症により、総頸動脈血流量は軽度増加したものの、顔面神経の組織血流量は減少した。しかも、低炭酸ガス血症により、顔面神経の微小循環は影響を受けなかったことから、高炭酸ガス血症による中枢性の交感神経機能の亢進も、顔面神経の微小循環を障害すると考えられた。
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