研究概要 |
BCGが膀胱腫瘍に対して抗腫瘍効果を示すのは宿主免疫系、特に細胞性免疫を介しているといわれている。この細胞性免疫を主に担っているTリンパ球やNatural killer細胞は1つにはFas抗原を介して標的細胞を傷害する。抗Fas抗体はFasリガンドと同様、Fas抗原を提示している細胞にアポトーシスを誘導する。そこで今回我々は種々の抗癌剤により抗Fas抗体の膀胱腫瘍細胞対する細胞傷害活性が増強されるのかどうかをT24,J82,HT1197,KK47膀胱腫瘍株化細胞、4人の患者より手術時に採取した新鮮膀胱腫瘍細胞を用いて24時間のMTT試験にて検討した。 用いた膀胱腫瘍細胞は抗Fas抗体に対して比較的抵抗性であった。膀胱腫瘍に対してよく用いられる種々の抗癌剤(Adriamycin[ADR],Mitomycin C[MMC],5-Fluorouracil[5-FU],Methotrexate[MTX])に抗Fas抗体を併用したところ、ADRとの組み合わせのみT24細胞に対して相乗的な殺細胞効果を示したが、MMC,5-FU,MTXとの組み合わせでは相加的な殺細胞効果を認めた。この抗Fas抗体とADRとの組み合わせによる相乗的な殺細胞効果はADR耐性株であるT24/ADR細胞に対しても観察された。さらに他の膀胱腫瘍株化細胞であるJ82,HT1197,KK47細胞や、4人の膀胱腫瘍患者より手術時に得た新鮮膀胱腫瘍細胞を標的細胞に用いても同様に相乗的殺細胞効果が認められた。ADRの誘導体であるEpirubicinやPirarubicinと抗Fas抗体との併用によってもT24細胞に対して相乗的な殺細胞効果が認められた。以上の実験は抗Fas抗体と抗癌剤とで膀胱腫瘍細胞を同時に処理したが、その処理の順序を変えても相乗的な殺細胞効果が認められるのかどうかを検討したところ、膀胱腫瘍細胞の抗Fas抗体とADRとの処理の順序にかかわらず相乗的殺細胞効果が認められた。次にこの抗Fas抗体とADRとの組み合わせによる相乗的な殺細胞効果のメカニズムに関して検討した。T24細胞をADRで処理するとT24細胞上のFas抗原の発現が増強された。抗Fas抗体とADRとの併用時におけるT24細胞のアポトーシスをアクリジン-オレジン染色にて検討すると、抗Fas抗体単独またはADR単独処理に比較して、明らかにアポトーシスを起こしている細胞が増加していた。 以上の結果から、膀胱腫瘍においてADRはFas抗原の発現を増強することにより、リンパ球のFas抗原を介した腫瘍細胞傷害機構を増強する可能性が示唆された。また、BCGとADRとを併用することにより、治療効果を増強できる可能性が示唆された。
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