研究概要 |
前立腺癌の転移・形質転換に伴う遺伝子変化を探るにあたり、我々は、当施設における前立腺癌の臨床的検討を行い報告した。その結果、当施設における前立腺癌のうち手術適応となる早期前立腺癌は意外に少なく、この2年間で10例たらずであることが判明した。従って、臨床検体を用いた前立腺癌組織におけるc-mycやc-fosの発現、bcl-2のmutation検索は症例数が少なく、報告するところまでに至らなかった。AT6.3細胞は高率に肺転移をきたすrat前立腺癌であるが、この細胞のnude mouseにおける肺転移が、血管新生阻害剤であるTNP-470によって著明に抑制されることを報告した。また、我々はヒト前立腺癌細胞LNCap, DU145, PC3の培養上清中に骨芽細胞分化抑制活性を見いだしたが、まだ論文発表には至っていない。この活性物質の単離精製は現在も進行中である。癌の遺伝子変化を調べるにはやはり、臨床検体が豊富に得られる腎細胞癌や精巣腫瘍を用いるのが現実的であり、またこういった腫瘍における遺伝子変化を調べる手法は前立腺癌の研究にもつながるものと判断した。特定の遺伝子においてのみ見られるゲノムインプリンティングという現象は癌化に伴って消失することがある。我々は、精巣腫瘍においてこのゲノムインプリンティングが高率に消失していることを見いだし報告した。同様の研究を前立腺癌においても現在行っているところである。アポトーシスを起こす典型的な細胞刺激としてFas抗原を介した経路があるが前立腺癌でのFas抗原を介した細胞死は典型的でなく、むしろ、腎細胞癌においてFas抗原を介した典型的細胞死が認められ、さらにこのFas誘導性アポトーシスがインターフェロンγによって増強されることを報告した。以上、やや当初の方向とは異なるものの研究成果はあがりつつある。
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